生成AIを開発に取り入れる企業が増え、設計や実装など、AIを活用できる場面は広がっています。

一方で、AIツールを導入しただけで、開発業務をそのままAIに任せられるわけではありません。

AI駆動開発を実務で進めるために重要なのは、「どのAIを使うか」だけでなく、「AIに任せられる開発環境をどうつくるか」という視点です。

AIが判断するための前提情報を参照でき、何をもって完了とするかが明確になっている。さらに、確認と修正を繰り返すことができ、安全に作業できる範囲が決められている。こうした環境を整えることで、AIに任せられる範囲を広げやすくなります。

本記事では、AI駆動開発を実践するうえで押さえておきたいポイントを、「コンテキスト」 「完了条件」 「ループ」 「ガードレール」の4つに分けて解説します。

AI駆動開発とは?

AI駆動開発とは、AIを開発プロセスに組み込み、設計や実装などの作業を支援・実行させながら開発を進めていく考え方です。

重要なのは、単にAIにコードを書かせることではありません。

AIが開発の中で一定の役割を担うためには、AIが判断するための情報や、作業結果を確認する仕組みを開発環境側に整えておくことが必要です。

そのため、「AIに何ができるか」だけでなく、「自社の開発環境は、AIに仕事を任せられる状態になっているか」という視点を持つことが、AI駆動開発を実践する第一歩になります。

AIツールを導入するだけでは、AI駆動開発がうまくいかない理由

AIは、与えられた情報をもとに高速に処理できます。しかし、AI側から見て「どのような技術やルールで作るのか」「どの状態になれば完成なのか」「作ったものが正しいかをどう確認するのか」「どこまで変更してよいのか」といった条件が分からなければ、安定して作業を任せることは難しくなります。

人が開発するときには、社内のルールや過去の経緯、業務上の前提などを理解しながら判断していることがあります。AIにも、こうした判断に必要な情報や条件を渡せる状態をつくる必要があります。

つまり、AI駆動開発は「より高性能なAIを使えば解決する」というものではありません。

AIが必要な情報を参照でき、作業結果を確認し、問題があれば修正できる。さらに、人が確認すべきポイントやAIが作業してよい範囲も決まっている。

こうした「AIに任せられる状態」をつくることが重要です。

AIに任せられる開発環境をつくる4つのポイント

AIに一定範囲の開発作業を任せるために、押さえておきたいのが次の4つです。

01
コンテキスト
AIが判断するための前提情報を整える
02
完了条件
何をもって「できた」とするのかを明確にする
03
ループ
確認と修正を繰り返せる状態をつくる
04
ガードレール
AIが安全に作業できる範囲を決める

1. コンテキスト|AIが判断するための前提情報を整える

AIに開発作業を任せるためには、まず「何を前提に判断すればよいのか」を伝えられる状態が必要です。

使用する技術やバージョン、設計上の決まりごと、役割分担や構造、データ変更の手順に加えて、業務固有の定義や判断ルール、契約状態・承認条件・変更可否なども、AIが判断するための前提情報になります。

こうした情報が不足していると、AIがその都度異なる判断をしたり、実際の業務ルールと異なる内容を生成したりする可能性があります。

ここで重要なのは、毎回すべてを人が説明することではなく、AIが必要な前提情報を参照できる状態を整えておくことです。

人に仕事を依頼するときも、背景やルールを知らない相手に適切な判断を求めるのは難しいものです。AIについても同様に、判断に必要な前提を整えることが、安定したアウトプットにつながります。

2. 完了条件|「何をもって完成か」を明確にする

次に必要なのが、「どの状態になれば作業が完了したと判断できるのか」を明確にすることです。

人が感覚的に確認するだけではなく、AIが作業した結果を確認できる状態をつくっておく必要があります。

そのためには、組み立てと動作確認をコマンドで実行できる状態や、変更のたびに自動で点検できる仕組みを整えておくことがポイントになります。

「作って終わり」ではなく、その結果を確認できる状態にする。これによって、問題があった場合にも次の修正につなげやすくなります。

3. ループ|確認と修正を繰り返せる状態をつくる

AIが一度作ったものが、必ず正しいとは限りません。

そこで重要になるのが、作業した結果を確認し、問題があれば修正する流れです。

AIが作業し、その結果を確認する。問題があれば修正し、もう一度確認する。この流れを繰り返せる状態をつくることで、AIに任せられる範囲を広げやすくなります。

AI駆動開発では、「一度で正解を出させる」ことだけを目指すのではなく、「確認と修正を繰り返せる状態をつくる」ことが重要です。

4. ガードレール|AIが安全に作業できる範囲を決める

AIに任せられる範囲を広げるほど、同時に考えなければならないのが安全性です。

そこで必要になるのがガードレールです。

Gitで変更履歴を残す、Pull Requestを利用する、CIによる確認を行う、人によるレビューを設けるといった仕組みに加えて、AIが利用できる範囲や社内のAI利用ルールを決めておくことも重要です。

目的は、AIに自由に作業させることではありません。

AIが作業しても問題を検知でき、必要に応じて人が確認・修正できる状態をつくることが重要です。

人がすべての作業を行うのではなく、人が確認すべきポイントを決めながらAIに任せる。この役割分担が、AI駆動開発を実務に取り入れるための土台になります。

自社の場合、どこから整えればよい?

AI駆動開発に必要な環境は、現在の開発環境やAI活用状況によって異なります。

「自社では何が足りないのか」「どこから小さく試せそうか」といった段階から、30〜45分程度で一緒に整理することも可能です。

自社の環境について相談する

実際の開発プロジェクトでも「AIを使う前の環境づくり」を実践

当社が支援している業務Webシステムの新規開発でも、AIツールを利用するだけではなく、AIを活用しやすい形に開発の進め方そのものを整える取り組みを行っています。

このプロジェクトでは、お客様側で実装を進め、当社はAIを活用するための環境と仕組みづくりを支援する役割を担っています。

具体的には、開発の進め方をAI向けに整理し、規約・自動チェック・雛形などを整えています。さらに、課題管理とCIをつなぐことで、作業した結果が自動で記録に残る状態をつくっています。

実装工程では、事前の見積工数と実際の作業日数を同じ手順で比較しています。

開発の進行ペース
事前の見積に対して 最大約2.0倍 のペースで進行

※数値は、お客様側で担当する実装工程について、事前の見積工数を基準に、AIを活用した実際の作業日数を比較した結果です。テスト・リリース工程および当社側の支援工数を除いた条件で計測しています。効果は開発環境や対象業務等によって異なります。

この事例でも重視しているのは、AIツールを利用することだけではありません。AIが作業しやすい環境や、結果を確認できる仕組みまで含めて整えることです。

AI駆動開発では「どのAIを使うか」だけでなく、AIが仕事を進められる環境そのものを整えることが、実践につなげるための重要なポイントになります。

AI駆動開発を始める前に、自社で確認したい6つのポイント

AI駆動開発を自社で実践する場合、まず現在の開発環境がどこまで整っているのかを確認してみましょう。

すべてを最初から整える必要はありません。土台が整っているほど効果は大きくなりますが、整っているところから小さく始めるのが現実的です。

確認したいのは、次の6つです。

01 プログラムの変更履歴が残る仕組みがあるか

いわゆるGitなどのバージョン管理です。AIが作業した場合も含めて、プログラムがどのように変更されたのかを確認できる状態になっているかを確認します。

02 組み立てと動作確認をコマンドで実行できるか

組み立てや動作確認を人が手作業で行うのではなく、コマンドで実行できる状態になっているかを確認します。

03 変更のたびに自動で点検する仕組みがあるか

いわゆるCI(自動チェック)です。変更が行われた際に、自動で確認できる仕組みがあるかを確認します。

04 設計や決まりごとの資料が残っているか

設計や開発上の決まりごとが、口伝えだけになっていないかを確認します。AIが判断するためには、人が持っている前提やルールを参照できる状態にしておくことが重要です。

05 社内でAIツールの利用が認められているか

AIツールを業務で利用できる状態になっているか、情報の取り扱いルールも含めて確認します。

06 小さく試せる対象システム・機能があるか

最初から広い範囲に適用するのではなく、影響範囲が限定的なシステムや機能など、小さく試せる対象があるかを確認します。

6つすべてが完璧に整っていなければ、AI駆動開発を始められないわけではありません。

足りない部分については、試験導入と並行して整えていくという進め方も可能です。

まずは自社の現在地を確認し、整っているところから小さく始めながら、AIに任せられる環境をつくっていくことが重要です。

AI駆動開発で、人は何をするのか?

AIに任せられる範囲が広がっても、人の役割がなくなるわけではありません。

重要になるのは、「何をAIに任せ、何を人が判断するのか」を決めることです。

AIが作業を進めるための前提や完了条件を決め、安全に作業できる範囲を整える。そして、必要なポイントでは人が確認・判断する。

すべてをAIに任せるのではなく、人が判断すべきことに集中できる状態をつくることが重要です。

AIに任せられる作業を増やすことで、人は判断や確認など、人が担うべき仕事に時間を使いやすくなります。

まとめ|AI駆動開発は「AIを使う」から「AIに任せられる状態をつくる」へ

AI駆動開発を実践するうえで重要なのは、高性能なAIツールを導入することだけではありません。

今回紹介したのは、コンテキスト・完了条件・ループ・ガードレールという4つのポイントです。

コンテキスト 完了条件 ループ ガードレール

コンテキストによってAIが判断するための前提情報を整え、完了条件によって何をもって完成とするのかを明確にする。さらに、確認と修正を繰り返すループと、安全に作業できるガードレールを整えることで、AIに任せられる環境をつくっていきます。

AI駆動開発は、単に「AIに任せる」ことではなく、「AIに任せられる状態をつくること」が重要です。

すべてを一度に整える必要はありません。まずは自社の土台を確認し、整っているところから小さく試しながら、AIを活用するための運用の型をつくっていくことが第一歩になります。

自社の環境に当てはめて整理したい方へ

AI駆動開発の進め方は、現在の開発環境やAI活用状況によって異なります。

当社では、大手企業向けのAI駆動開発勉強会・研修などを通じて、AIを実務に取り入れるための支援を行っています。

本格的な勉強会・研修だけでなく、まずは自社の状況を整理したい場合には、30〜45分程度のミニ勉強会・ディスカッションとして、必要なテーマに絞ってご説明することも可能です。

「自社ならどこから着手するか」 「現在の環境で何が不足しているか」 「どこから小さく試せそうか」

といった段階からでも構いません。お気軽にご相談ください。

自社のAI駆動開発について相談する

AI駆動開発に関するよくある質問

AI駆動開発とは何ですか?

AIを開発プロセスに組み込み、設計や実装などの作業を支援・実行させながら開発を進めていく考え方です。

単にAIツールを導入するだけでなく、AIが判断・作業しやすい環境を整えることも重要です。

AI駆動開発に必要な開発環境とは?

本記事では、コンテキスト・完了条件・ループ・ガードレールの4つを重要なポイントとして整理しています。

AIが判断するための情報、何をもって完了とするか、確認と修正を繰り返せる状態、安全に作業できる範囲を整えていくことがポイントです。

AI駆動開発を始めるには何が必要ですか?

まずは、プログラムの変更履歴、組み立てと動作確認、変更時の自動点検、設計や決まりごとの資料、AIツールの利用可否、小さく試せる対象システム・機能という6つの観点から、現在の環境を確認します。

すべてを整えてから始める必要はありません。足りない部分を、試験導入と並行して整えていくことも可能です。

AIに開発を任せるためには何が必要ですか?

AIに必要な情報を渡すだけでなく、「何をもって完了とするか」「結果をどう確認・修正するか」「どこまでAIに任せるか」を決めておくことが重要です。

そのために、コンテキスト・完了条件・ループ・ガードレールという4つの観点から環境を整えていきます。

AI駆動開発では、人は何をするのでしょうか?

AIに任せる範囲と、人が判断・確認する範囲を決めることが重要です。

すべての作業をAIに任せるのではなく、AIが作業できる環境を整え、必要なポイントでは人が判断・確認します。AIに任せられる作業を増やすことで、人が判断すべき仕事により集中できる状態をつくることも、AI駆動開発を進める目的の一つです。